Research project(作成中)

見ることは、知ることー放射線イメージングを駆使した研究展開

根から吸収した水や栄養元素、そして葉で吸収した二酸化炭素を使って植物は成長します。成長の過程では、植物体内において活発な物質輸送が行われています。ミネラル、糖、アミノ酸、植物ホルモンなど、ありとあらゆる物質が、植物の成長段階に合わせて適材適所に分配されることで植物成長が支えてられているわけです。したがって、このメカニズムの理解は植物科学の基礎として、ひいては作物生産の向上のために、非常に重要と言えるでしょう。

では、植物体内で行われている物質輸送とは実際にはどのようなものでしょうか。まずこれを正確に知ることは研究を進める上で欠かせません。そのために私たちが利用しているのが、放射線イメージングです。放射性同位体で標識した物質を植物に投与し、放出される放射線を画像として検出することで、投与した物質がいつ・どこに・どれだけ輸送されたかを可視化する技術です。この技術によって明らかになる物質輸送は、時に、私たちの予想よりもはるかにダイナミックかつ巧妙なのです。

【葉から根への物質輸送】  

葉面にカリウムやナトリウムの放射性同位体を添加し、植物体内での動きを非破壊で経時的に可視化すると、両元素とも5時間以内に根に輸送されることが分かります。

しかし、カリウムはその後も根に留まる一方で、ナトリウムは根から失われていることが見てとれます。ナトリウムは高蓄積すると塩害を引き起こすため、植物は積極的に排出する仕組みを持っているのです。私たちは現在、このナトリウムの排出を担う分子をはじめとした、植物のストレス耐性に寄与する分子に注目した研究を行っています。

【葉から幹・茎への物質輸送】

冬眠前の樹木の葉にリンの放射性同位体を投与し、幹の断面を可視化すると、リンが維管束を通って葉から幹に運び込まれ(黒色の一番濃い部分)、外側の柔細胞や、内側の放射柔組織・髄周辺細胞へと運び込まれ冬を越えるために貯蔵されていることがわかります。私たちは現在、このような樹木の季節的な栄養素リサイクルの仕組みと意義を明らかにするため放射線同位体実験に分子生物学的手法・バイオインフォマティクスを組み合わせて研究を進めています。

【根から地上部への物質輸送】

根の一部に添加された放射性同位体は上部の根を経由して2時間以内に地上部へと輸送されますが、この過程で既に元素ごとの選択性が働いていることが見てとれます。元素選択の仕組みは植物科学だけでなく、生命科学分野における普遍的な研究課題であり、私たちはこの仕組みに関わるいくつかの分子に注目した解析を進めています。研究の一部は国際共同研究となっています。